ヨーロッパ、東南アジア、インド・・・
   異なる文化、温かい人達との出会い

      

      

インド 4章

バラナスィー、スィースィー

ツン、ツン。
「もうすぐ、着くらしいよ」

朝つつかれて、目覚める。

夜寒くて寝れなかったのもあってか、寝足りなかった。
下に下りるとすでに聖子ちゃんはシートに座ってボーっとしてた。

昨日買っておいて、食べなかったシナモンロールを
一つずつ食べる。

「堅いね、これ。」
大好きなシナモンロールの味とは、大分違ってた。

しばらくすると、駅に到着し、
周りの人に「バラナシ?」と聞いてみると
「違う、次だ」と言う。

他の国で鉄道に乗ってると、アナウンスがならなかったり
ホームに駅名が出てなかったりして、全く分からない場合がある。

準備を終えて、待っていると
今度こそバラナシに着いた。

駅から一歩外へ踏み出すと、誇りっぽさと一緒に
たくさんの客引きがやってくる。

まずは誰とも交渉せず、外に出てみて
街の雰囲気を確かめてみた。

ガイドブックの地図を見る限り、歩いてもガンガー(ガンジス河)
には行けそうだったが、1時間は歩きそうだった。

一人なら歩いたかもしれないが、聖子ちゃんも一緒だったので
結局、オートリクシャーに乗っていくことにした。

適当にリクシャーに声を掛け、値段の交渉をする。
とりあえず、ガンガーの方に向かってくれと伝えて乗っていると
運転手が、宿を紹介するからと言ってきた。

俺は、「宿はついてから決めるから、
とりあえず、ガンガーに向かってくれ」ともう一度言った。

地図を見て、多少の方向感覚をつかんでいた俺は
リクシャーの向かっている方向が、ガンガーからそれているような気がした。

一度、リクシャー止めるように言う。
やはり、彼は自分の知っている宿に向かおうとしていた。

そこは、地球の歩き方にも一応載っていたが、地図外となっている。

今回は、冷静に「そこには絶対に泊まらない、お願いだから
ガンガーに向かってくれ」と何度も笑顔を見せながら説得した。
10分も話した頃に、ようやくあっちが折れて
Uターンしてくれた。

しばらく言ったところで、「ここまでだ」と彼が言う。

全く川など見えず、「ここじゃないだろ、ガンガーだぞ」と
言うが、ここから先は、オートリクシャーでは入っていけないのだと言う。
確かに、そこから先にオートリクシャーはいないように見えた。

ここで下りて歩き始めたが、実際にはかなり手前で下ろされていた。
人に道を聞きながらガンガーを目指す。

歩けど歩けど川には着かず、結局、途中でサイクルリクシャーに乗ったが
それでも結構な距離があった。

ようやくそれらしきところに着き、下ろしてもらった。
少し歩いたところで、茶色く濁った川が見えてきた。

ガンガーだ!

来るまでに大分体力も使ったので、感動も一入だった。
一度近くまで見に行ったが、とりあえず休もうということで
近くの店でチャイを飲んで休む。

そこで現地の学生と話しをした。
学校、恋の話しなどをいろいろ話して出ていこうとしたところ
なぜだか彼もついてきた。

聖子ちゃんが、バラナシに友達が来てるはずだから
合流したいと言っていたので、ネットカフェに行くことに。

そこでも、彼は聖子ちゃんの隣に座り一生懸命に話をしていた。
どうやら聖子ちゃんを気に入ったらしい(笑)

「ネットにマジで集中できない」「まじでうざいよー」
「なんとかして」と連呼してたのが、伝わったのか
しばらくして彼は別れを告げて、店を後にした。

フレンズ

結局友達と合流できなさそうという彼女と一緒に
宿探しを始めた。

とりあえず、ガイドブックで適当に選んだ近くの
「フレンズ」というゲストハウスに向かってみる。
日本語で書かれた看板がサインになっていて、それに従って歩く。

道は、なんの型も規則もなく繋がっている。
1mほどの幅の道に、人やら、牛やら、バイクやらが
譲り合うなんていうこともなく我先にと動いている。

においも、掃除のされていない公衆便所のような臭いが
町全体を包む。
砂による誇りっぽさも含めて、現地の人でさえ口や鼻を覆いながらいている。
俺は、この誇りっぽさで喉がやられていた。

数分歩くと、すぐにそれは見つかった。

シングルを2つと言うと、満室らしい。
ドミトリーなら空いてるというので、見せてもらうことにした。

少し離れた場所に、あったドミトリーに入ってみると
手前に日本人の若い男性が2人と、奥にカップルらしき
若い2人組がいた。

挨拶をして、「ここ、どうですか?」なんて話してみると
「かなりいいっすよ!」という返事と、その子らの愛想の良さに
ここに泊まることに決めた。
2人はパーマ頭のたくましい男と、かずまという男。

荷物を下ろして、少し休んでいると
新たに若者が入ってきた。

パーマとかずまと話しをしていたので
知り合いかと思っていたら、ただ部屋を見に来たらしい。

トートバック一つの彼に、「残りの荷物はどこにあんの?」
と聞くと、それだけだという。

俺は彼に敬意を表して、「トートバッカー」と呼ぶ事にした。
その時に着ていたアジアの土産屋でよく売っているような白いシャツは
なんと100ドルもしたらしい!
本人も、騙されたんじゃないかとは思っていたらしいが
「俺は貧乏旅行をしたい訳じゃないから、金は気にしないんだ」と言っていた。

なんかちょっと違う気もしたが、いろんな人がいるもんだと思った。

宿の中を見て「やっぱここは止めとこうかな」なんていう彼も交えて、
とりあえず昼飯に一緒に行こうとなった。

5人で近くのMoon Star Hotelという食堂へ向かった。
まだ、全く地理感が無かったため、先頭を行くパーマに
ついていった。

中に入ると、小汚い店内にテーブルがいくつか置いてある。
奥のテーブルに腰掛けると、パーマがオススメだという
タリーを皆で注文することにした。

タリーというのは、銀の大きいプレートに
2、3種類のカレー、チャパティ(ナンの薄い感じのもの)、ヨーグルトなどがついた
定食のようなもの。

インドに来て初めて、こちらのカレーを食べたが
想像していたのと全然違った。

日本で食べる、インド人が経営しているような本格的なカレー屋は
すごくおいしいので、てっきりそれは本場のカレーだとばかり思っていた。

実際には、全然違う。
想像よりもまずかった。

パーマが「やっぱ、うめぇ」と興奮気味だったので
俺も「これうまいねー」と自分のテンションを上げながら食べる事にした。

そして、食べ終わってから
「いやぁ、最後に申し訳ないけど、これ結構まずいよね!」
と言うと、「いや、さっきうまいっていってたじゃないっすか!」
と皆がつっこんでくれた(笑)
まぁとにかく腹は満腹になったので、とりあえず宿に戻った後は
自由行動で各々、外出した。

俺はとりあえず、ガンガーに行きたかったので
ガートに沿って延々と歩いていくことにした。
(ガートとは、川から陸にかけて階段状になっている場所)
川から斜めに伸びるガートはガンガー沿いに84個もあるらしい。
川が増水の時に堤防の役目でも果たすのだろうか。
一つ一つのガートには、それぞれ名前がついている。

1時間ほどあるいたところで居心地の良さそうな場所を見つけて
寝転んでゆっくりすることにした。

川の流れのゆるやかさに加えて、人も実にスローライフを楽しんでいる。
東京のように、時間に追われ、小走りに移動する人など皆無だ。

誰も急ごうとしないし、時計なんかも持ってないだろう。
そんな時間の中で、何もせずに川を眺めていると、1人の男の子が
近づいてきた。

「どこからきたの?」
英語が話せるらしい。

「日本だよ。何歳だい?」
「8歳」

その子と会話をしていると、小さい女の子が2人近づいてきた。
彼女たちは、4歳と6歳の姉妹だという。
始めは警戒してか、離れた場所から見ていたが
近づいてきて話しをしてくれた。
1時間ほど、遊んでもらい、お礼にガムをあげて
バイバイをした。

インドのお祭り

夕方近くになり宿に戻る。
夕飯の約束をしていたので戻ってきたが、まだ集まっていないようだった。

フレンズのドミトリーは、手前にシャワーとトイレがある。
靴を脱いでカーテンをめくって中に入るとベッドが5つあり、
その奥に、ドアは無いが、もう一部屋といった感じで
布団が4つ敷いてある。

布団のある部屋には、大きい窓がついていて、
そこからガンガーが見渡せて、なかなかいい景色だった。

朝からそこにいたカップルの、男だけが
遠くを見るようにして、壁に寄りかかって座っていた。

「どこも行かないの?」
「いやぁ下痢がひどくって最悪ですよ」
無表情に彼は言った。

なるほど。彼が死んだような目をしていた理由はそれだった。
昨日は、かなり嘔吐と下痢がひどかったらしく、
それからみれば、今はまだましだと言う。

この日も、朝からヨーグルトしか食べていないのだという。
彼女は近くにある、バラナシ大学に遊びにいったらしい。

武蔵野美術大学の4年だという彼は、まだ就職を決めておらず
何か刺激を求めて来たらしいが、かわいそうに窓から
ガンガーを眺める羽目になってしまった。

しかし、この宿からの眺めは悪くない。
とても静かな中に、遠くからお経が延々と聞こえてくる。
そして、サルが時々くる窓からは、茶色く濁ったガンガーの流れが見えて
時の流れがそこだけ止まったような錯覚さえ感じた。

バラナシで沈没する旅人が多いらしいが、あの地に行った者にしか分からない
不思議な空気が理由だと言う事は間違いなかった。

その空気は俺にとっても、いつまでもいたくなる居心地の良さだった。
ただ、日本人にとっては、やる気や生気まで奪ってしまいそうな
危ない空気にも感じられた。

そんな空気に浸っていると、ようやく皆が集まった。

ちょうど祭りの最中らしく、宿の近くの大きいガートで
夜になるとお祭りをしてるというので見に行ってみる。
ドゥルガ祭というらしい。

既に準備が整い、人も大勢集まっていて
儀式のようなものが集まった。

日本の祭りとは違って、儀式といった感じで
1時間ほど続いた後に、灯篭をガンガーに流すものだった。
何人もの小さい子達がそれを売りに何度もきて
からかって遊んでいたが、俺は買わずに他の人が流してお祈りしているのを見ていた。

祭りも終わったところで、「モナリザ」という食堂へ行った。
そこは、狭くて、客のほとんどは外人の旅行者だった。

入ったところで、聖子ちゃんが探していた友達が中にいて
大喜びして、そこに合流していった。

なので男3人で注文して待っていると、メガネをかけた
若い男が話しかけてきた。

どうやら俺がガートで遊んでる時に「フレンズ」に泊まりにきて
パーマ達と話しをしていたらしい。

彼の名は神谷。
22歳の大学生という彼は、皆が食べ終わった頃に食事がきたにも関わらず、
気持ちいいほどの食いいっぷりで、一気にタリーを平らげた。

食べ終わったところで、先に帰る事を聖子ちゃんに告げ
俺の懐中電灯を渡して店をでた。

この辺は、よく停電するらしく、夜に消えると真っ暗で
右も左も分からないくらいらしい。

前日の帰り道に、パーマとかずまは懐中電灯を持っていなかったため
弱弱しいライターの光で帰ったという。

想像し難いが、道が狭く、そこら中にいる牛と、バケツ一杯ほどもある牛の糞が
落ちている道は光なしに歩くのは非常に大変だ。

この日は、停電も無く無事に宿に到着した。

パーマとかずまと奥の部屋のカップルが皆、翌日の早朝に旅立つとのことで
一緒に写真を撮ったり、いろいろと話したりした。

5つあるベッドの中でも一番入り口よりのベッドの神谷が
あそこは寂しいからと、俺のベッドに横になったり
その下の床に横になったりと人懐っこい感じを見せていた。

話してみるとなんだか面白いやつで、メガネの感じが
小木(おぎやはぎ)に似ていたので、オギと呼ぶ事にした。

彼は「絶対に似てへん。俺、メガネ取ったらもこみちとか
言われてますよ」と言っていたが、お構いなしにオギで通す事にした。

こんな仲間と楽しく語っているうちに
眠くなってきた。

この日は少し風邪っぽく、だるかったのでシャワーを浴びずに
そのまま就寝することにした。

夜遅くに聖子ちゃんが帰ってきて、案の定停電していたらしく
懐中電灯が活躍したらしい。

パーマとかずまと聖子ちゃんは年が24で一緒だったらしく
朝まで会話は続き、その声が俺の夢に響いてきていた。





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